2017年3月1日水曜日

畑やってた時には色んな生き物との思い出がある。中でも鳥は記憶によく残ってるし今大阪の街の中でみかけてもその時の雰囲気を思い出します。
スズメはどこに行ってもみかけますが奈良でももちろんよく見かけた。中国の古いおはなしにスズメが稲の実を食べるので駆除したところ、スズメが食べていた害虫が増えて不作になったという話があるらしい。それと同じように、農家の方々にとっても一応害獣ではあるけどむやみに嫌ったりしない微妙な距離感があったように思う。地面にいる時は両足でぴょんぴょん跳ねるように歩く。
鳥の中でも一番のお気に入りのひとつ、セキレイは人間のように片方ずつ足を出してぴょこぴょこーっと素早く歩くので非常にかわいかった。素早く歩いて立ち止まった時に尾を上下にフリフリするのもとてもかわいい。別に餌になるようなものも無いのに事務所の荷捌き場によく降りてきて、人の後をついてきてたりしてたので人によくなつくんやないやろうか。ある程度の距離を保って歩き回り、ちょっと近づくと飛んでってちょっと離れたところからこちらの様子を伺い、また降りてきてついて回る、の繰り返し。かわいい。
ツバメも好き。他の鳥たちとは違って、あえて人間の近くに暮らすことで天敵を避けるかしこい鳥、ってイメージ。毎年家の軒先に巣を作っていて、親鳥が卵を温める、雛が生まれてギャーギャーと餌をせがむ、巣からはみ出て落っこちるんじゃないかというくらいに大きくなる、という過程を見るのが、親ほどじゃないおじさんの気持ちくらいで微笑ましく見ていた。落とす糞は厄介でしたが。東吉野の山奥にある祖父母の家にも毎年来ていた。そちらは多い年には5つくらいの巣が出来ていたように思う。昔は猫もいたので賑やかやった。しかし今ではどちらの家にもスズメは巣を作らなくなった。他の家では巣を作っているのを見るので、一度巣を作らなくなるともう不良物件の噂がたって作られなくなるのか?猫に悪さされたとか。巣の材料になる泥がある田んぼが少なくなっているのもあるかも。田んぼを耕す時、耕運機が土を混ぜて泥の中にいる虫を狙って田んぼの水面ギリギリを滑空しているのも風物詩だった。
大きい鳥では鷺も印象的やった。遠くの田んぼや池の対岸にじっと立っていて少しでも近づこうものならすぐさま飛び去ってしまう、なかなか近くで見られない鳥だったので、少し神話性じみた存在感があったような。深夜急にギャアッギャアッという鳴き声と大きい羽音とともに救急車のドップラー効果みたいに遠くに音が消えていくさまも、姿は身近に確認出来ないけど印象に残るということで、余計に気になってた。キジの鳴き声と一緒で、徹夜で作業して完全に自分の世界に入っている時に急にその鳴き声がして、ふと我に返る、ということが何度もあった。対して、前に岡山に行った時にはそばにある用水路に普通におってすごく近くで見れたので、鳥にも県民性ってあるんかな。
ある時、新たに借りた畑が背丈くらいある草が生い茂る半分耕作放棄地やったんで草刈り機で倒してたことがあった。すると突然中型犬くらいの茶色い動物が草の中から物凄い早さで飛び出してきてめちゃくちゃびっくりして腰をぬかしてしまった。メスのキジだった。キジは飛ぶより走ることの方が多いと聞いていたけどこんなに!しかしあんなに音立てて近くをガサガサやってたのに急に飛び出して逃げるって、隠れてたつもりやったんかな。動物には敵を察知してからすぐ逃げて距離をとるタイプとその場でじっと隠れてやり過ごそうとするタイプがいるらしい。近鉄橿原線のファミリー公園前〜平端間の車窓からもよくキジが見えた。キジも深夜によく鳴く。とびっきり大きな声で「ケーン!」という独特な鳴き声を一回だけ鳴く。それを聞くと、深夜の波一つない水面のような時間の流れに石を一つ投げ入れたのごとく、ハッとしたものです。キジはいつも地面に足をつけているので、キジが鳴く時は地面の異変に感づいた時、つまり地震の前兆といわれることが多いらしいけど、僕が聞いた時に地震があったことは一度もなかった。
最近見た中では、初めて姿を見たトラツグミが印象的でした。春日の山にドライブしにいった時に道路脇にたたずんでいて、鳩より少し大きい?サイズ感、ボテっとしたフォルム、全身茶色の縞模様、他の鳥はある程度の美意識をもって神様が作った生き物っぽい特徴らしい特徴があるのに、まるで円空仏とか民藝みたいな素朴な存在感がすごくよかった。最近初めて目撃しただけなのに一気に好きになってしまった。調べてみると、口笛そっくりな「フィ〜ッ」って鳴き声を出すらしい。夜中だとその鳴き声が不気味で気味悪がられるそうだが、いいんじゃないかなぁ。よさそう。


2017年2月6日月曜日

大浦太牛蒡と蓮根

スーパーではあまり見かけませんが「大浦太牛蒡」のような太くて短い牛蒡、普通の牛蒡よりめちゃめちゃうまいので見かけたら即買いがおすすめ。
http://noguchiseed.com/hanbai/tane/shosai/1037.html
こういう品種は中にスが入ってる場合も多いけど気にしないで食べてみてください。おいしいから。
蓮根の栽培はとってもしんどい。冷たい泥池の中に体半分浸かりながら収穫するのが腰いわすし寒いし特にめちゃめちゃしんどいらしい。奈良の郡山は蓮根の名産地やったみたいやけど今は生産者さん数えるほどになってるみたい。もしかして蓮根用の池を転用して金魚養殖がさかんになったんかな?なので蓮根の割高な値段を見るとなんとも言えない気持ちになって高いけど買ってしまう。僕が一時期借りて結局ほったらかしてた畑の土地主のおじいさん、足悪くしてるのに蓮根栽培始めるって言い出して皆に止められてたことあったな。

2017年1月22日日曜日

洗う

 野菜を洗うこと、とても地味で何も特別なことではなかったけどよく覚えていることのひとつ。
 畑で収穫した野菜は、土付きの牛蒡とか根菜類以外は大概洗ってから出荷するものだった。夏は冷たい水に野菜と手をあてて気持ちよかったけど冬は辛い作業でもあった。土を保温や雑草抑制のために覆うビニール製のカバーでマルチというものがあるのですが、僕はあんまりマルチを使わなかったので地面からの跳ね返りの泥が野菜によくついていてそれを落とさなければならない。ちなみに畑の横に浴槽が放置されてるのを目にした人もいると思うけど、あれは雨をためて野菜を洗ったり水やりしたりする農業用水を得るためです。水をポンプでひいてくるほどでもないどちらかというと小さい畑によくある。
 冬でも夏でも、特に葉物野菜の場合洗うために水にあてた野菜はパリッと張りが良くなるのが分かる。収穫によって本来の姿から切り離されたはずの野菜たちなのになぜか凛々しくなってるのが禊?洗礼っぽくあって、普段の作業なのに厳かな感じがした。土の世界と人の世界の境目に立ち会っているみたいな。大体そういう出荷にまつわる作業は一人で黙々と行ってたのでその時の精神状態もあったんかもしれんけど。収穫されてケースに無造作に積まれた野菜たちが水を浴びて均等に分けられボードン袋に綺麗に納められて並べられる。その一連の過程が粛々と行われてる感じ。ボードン袋というのは水分を適度に透過する野菜を包むビニールのこと。所謂スーパーで並んでいる野菜を包んでる透明のフィルムみたいなやつです。水に濡れると野菜の滑りが良くなり梱包作業が捗るのでそのためにも野菜を洗う。

2017年1月11日水曜日

 正月に実家に帰った時に立花亭のお菓子セットをもらって、入れ物の缶がかわいくて早く小物入れにしたいから隙を見つけてはお菓子食べてます。その中に「霜だたみ」というチョコパイがあって、初霜が降りた時の地面のサクサクした感触をパイの食感に見立てているらしく、なるほど〜うまいこと名付けたな〜と思ってます。
 前に畑などやってた時の冬の寒さを思い出します。朝市の準備のために日の出前に家に出るんですが寒い。放射冷却っていうのか、雲ひとつ無い綺麗な暁の空で、雪の降ってる時の湿っぽい寒さとは違うキーンとした寒さ、というか痛さ。野菜を保管する保冷庫に入るとあったかいと思うくらい。奈良の盆地なのでそんな感じなんですが、霜が降りるころになると地面に霜柱がたってシャクシャク鳴るようになる。冬は晴天が多いので日中になるとうってかわってあったかくなることが多かった。そうすると霜も溶けて地面がほんのり湿ります。
 そんな寒いと野菜も凍る。葉物野菜は凍ると一時的に変色してちぢれたようになり茎の表面がはがれやすくなったりする。凍ったまま出荷してはいけないので、他の時期とは違って厳冬期は朝に収穫することはありません。大体前の日の晩か、霜が溶けた昼に収穫したりする。用事があって朝に作業すると長靴の底から何枚も重ね履きした靴下を通して地面の冷たさが伝わって足が痛くなってくるので大変でした。大したもので、朝には痛々しく感じるくらいキンキンに凍って縮こまってた野菜も昼になって氷が溶けるとまた元通りにピンっと張るようになって、凄いなと思ってた。まぁ許容量以上の寒さにあてられると葉が黄色くなったり、枯れたりしますが。霜が溶けて葉に露がついてキラキラしてるのが綺麗だった。
 普通にスーパーで売ってたり、そもそも日本で流行っている野菜の品種って生食前提としたものが多い。若い時期に収穫すればその分柔らかくエグ味や苦味もない、より生食に適した野菜になる。んで大体スーパーに並んでる野菜はそのように食べやすい時期に収穫された野菜や早生っぽい品種が多いんですが、冬野菜に関しては、長い間畑に放置されて茎も葉も巨大になって固くなってるものが断然おいしいと思います。加熱調理するなら。特に水菜や壬生菜は放っといたら永遠に葉が増えていって、収穫しそこねた株が超巨大化したりします。直売所にいくと行き場の無くしたそんな葉物野菜がある時がありますが、僕はそんなのが好き。品種でも違いがあり、普通水菜は葉が細い品種、特に奈良には「千筋水菜」というのが多く出回ってますが、加熱用の筋が太いやつもあって、そっちの方がより味も濃くて歯ごたえもあり、おいしいと思う。
 野菜は寒さにあたると温度の低下から身を守るために糖分を作るらしく、それが冬野菜の甘みになるそう。白菜では、葉が開かないように紐でぐるっと縛ってから寒さにあてて、焼けた外葉を剥がして甘くなった中の部分を収穫する、という育て方もあります。イタリア野菜のチコリー類なんかもこうやって育てるみたい。知らずに適当に育てたことがあったけどめちゃくちゃ苦かった。ほうれん草の中でも特に甘くなる「ちぢみほうれん草」をほったらかして冬越えさせたことがあったんですが、とんでもない甘さになりました。りんごみたいな味!びっくりしました。逆にからし菜とかは寒くなると辛くなるっぽい。
 冬野菜は同じ野菜でも品種が山ほどあって非常にバリエーションがあってそれぞれに個性があって良い。例えば同じカブでも伝統品種が各地方にあっておもしろい。奈良の「飛鳥あかね」「日野菜かぶ」、島根の「津田かぶ」はうちの畑でも育ててた。飛鳥あかねは周りで育ててたの自分だけやって、種もあんまり売ってなかったけど、今もあるんかな。