2017年1月22日日曜日

洗う

 野菜を洗うこと、とても地味で何も特別なことではなかったけどよく覚えていることのひとつ。
 畑で収穫した野菜は、土付きの牛蒡とか根菜類以外は大概洗ってから出荷するものだった。夏は冷たい水に野菜と手をあてて気持ちよかったけど冬は辛い作業でもあった。土を保温や雑草抑制のために覆うビニール製のカバーでマルチというものがあるのですが、僕はあんまりマルチを使わなかったので地面からの跳ね返りの泥が野菜によくついていてそれを落とさなければならない。ちなみに畑の横に浴槽が放置されてるのを目にした人もいると思うけど、あれは雨をためて野菜を洗ったり水やりしたりする農業用水を得るためです。水をポンプでひいてくるほどでもないどちらかというと小さい畑によくある。
 冬でも夏でも、特に葉物野菜の場合洗うために水にあてた野菜はパリッと張りが良くなるのが分かる。収穫によって本来の姿から切り離されたはずの野菜たちなのになぜか凛々しくなってるのが禊?洗礼っぽくあって、普段の作業なのに厳かな感じがした。土の世界と人の世界の境目に立ち会っているみたいな。大体そういう出荷にまつわる作業は一人で黙々と行ってたのでその時の精神状態もあったんかもしれんけど。収穫されてケースに無造作に積まれた野菜たちが水を浴びて均等に分けられボードン袋に綺麗に納められて並べられる。その一連の過程が粛々と行われてる感じ。ボードン袋というのは水分を適度に透過する野菜を包むビニールのこと。所謂スーパーで並んでいる野菜を包んでる透明のフィルムみたいなやつです。水に濡れると野菜の滑りが良くなり梱包作業が捗るのでそのためにも野菜を洗う。

2017年1月11日水曜日

 正月に実家に帰った時に立花亭のお菓子セットをもらって、入れ物の缶がかわいくて早く小物入れにしたいから隙を見つけてはお菓子食べてます。その中に「霜だたみ」というチョコパイがあって、初霜が降りた時の地面のサクサクした感触をパイの食感に見立てているらしく、なるほど〜うまいこと名付けたな〜と思ってます。
 前に畑などやってた時の冬の寒さを思い出します。朝市の準備のために日の出前に家に出るんですが寒い。放射冷却っていうのか、雲ひとつ無い綺麗な暁の空で、雪の降ってる時の湿っぽい寒さとは違うキーンとした寒さ、というか痛さ。野菜を保管する保冷庫に入るとあったかいと思うくらい。奈良の盆地なのでそんな感じなんですが、霜が降りるころになると地面に霜柱がたってシャクシャク鳴るようになる。冬は晴天が多いので日中になるとうってかわってあったかくなることが多かった。そうすると霜も溶けて地面がほんのり湿ります。
 そんな寒いと野菜も凍る。葉物野菜は凍ると一時的に変色してちぢれたようになり茎の表面がはがれやすくなったりする。凍ったまま出荷してはいけないので、他の時期とは違って厳冬期は朝に収穫することはありません。大体前の日の晩か、霜が溶けた昼に収穫したりする。用事があって朝に作業すると長靴の底から何枚も重ね履きした靴下を通して地面の冷たさが伝わって足が痛くなってくるので大変でした。大したもので、朝には痛々しく感じるくらいキンキンに凍って縮こまってた野菜も昼になって氷が溶けるとまた元通りにピンっと張るようになって、凄いなと思ってた。まぁ許容量以上の寒さにあてられると葉が黄色くなったり、枯れたりしますが。霜が溶けて葉に露がついてキラキラしてるのが綺麗だった。
 普通にスーパーで売ってたり、そもそも日本で流行っている野菜の品種って生食前提としたものが多い。若い時期に収穫すればその分柔らかくエグ味や苦味もない、より生食に適した野菜になる。んで大体スーパーに並んでる野菜はそのように食べやすい時期に収穫された野菜や早生っぽい品種が多いんですが、冬野菜に関しては、長い間畑に放置されて茎も葉も巨大になって固くなってるものが断然おいしいと思います。加熱調理するなら。特に水菜や壬生菜は放っといたら永遠に葉が増えていって、収穫しそこねた株が超巨大化したりします。直売所にいくと行き場の無くしたそんな葉物野菜がある時がありますが、僕はそんなのが好き。品種でも違いがあり、普通水菜は葉が細い品種、特に奈良には「千筋水菜」というのが多く出回ってますが、加熱用の筋が太いやつもあって、そっちの方がより味も濃くて歯ごたえもあり、おいしいと思う。
 野菜は寒さにあたると温度の低下から身を守るために糖分を作るらしく、それが冬野菜の甘みになるそう。白菜では、葉が開かないように紐でぐるっと縛ってから寒さにあてて、焼けた外葉を剥がして甘くなった中の部分を収穫する、という育て方もあります。イタリア野菜のチコリー類なんかもこうやって育てるみたい。知らずに適当に育てたことがあったけどめちゃくちゃ苦かった。ほうれん草の中でも特に甘くなる「ちぢみほうれん草」をほったらかして冬越えさせたことがあったんですが、とんでもない甘さになりました。りんごみたいな味!びっくりしました。逆にからし菜とかは寒くなると辛くなるっぽい。
 冬野菜は同じ野菜でも品種が山ほどあって非常にバリエーションがあってそれぞれに個性があって良い。例えば同じカブでも伝統品種が各地方にあっておもしろい。奈良の「飛鳥あかね」「日野菜かぶ」、島根の「津田かぶ」はうちの畑でも育ててた。飛鳥あかねは周りで育ててたの自分だけやって、種もあんまり売ってなかったけど、今もあるんかな。